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メアリーさん – Tight Pants II

 メアリーさん - Tight Pants II

 – Tracklist –
 01. Intro
 02. 科学は著しく進歩した
 03. Juicy Juicy Sweetie
 04. You Disturbed the Man
 05. ボクは左足です
 06. The Mutton was Provided to Me
 07. Tight Pants II: Jon is Sad
 08. 気にならない
 09. It Comes as the Place



 - 02. 科学は著しく進歩した



 - 07. Tight Pants II: Jon is Sad


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 Release Date : 2015.01.04
 Label : Not On Label

 Keywords : Avant-garde, Electronic, J-Pop, Noise, Rubin’s vase.


 Related Links :
  ≫ メアリーさん aka スェーッグロード on SoundCloud
  ≫ メアリーさん on bandcamp


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New Zealand? Bulgaria? いや、やっぱり日本かなあ。謎のトラックメイカー、メアリーさんの作品です。カタログ番号らしきものも付されていますが、詳しくは謎。

サンプルをベースにしつつ、そのサンプルをエディットかつノイズまみれにするというのが、基本的なスタイルとしてあるようです。私はふだんジャンルとしてのNoiseに親しんでいないので、こういったスタイルがユニークなのかそうでないのかは、よく分かりません。しかしながら、確実に胸に訴えるものがあったので、こうして何やら書き記しています。この作品の音の在り方に非常に面白いものを感じたのです。

ルビンの壺(Rubin’s vase)と呼ばれる図形があります(いきなり何書いてんだコイツって思われても仕方ありませんが、ここからつながっていくのです。壮大な前フリをご了承ください)。詳しくはWikipedia、その他諸々を参照してほしいのですが、みなさん一度は目にしたことがあるのではないでしょうか、この図形。多義図形というもので、読んで字のごとく、ひとつの図形に2つの見方ができるというものです。ルビンの壺の場合は、向き合った2つの顔と、壺(杯)、2つの見方ができます。面白いですよね。この多義図形はルビンの壺以外にも数多く存在するので、興味のある方は調べてみてください。

大事なのはこのルビンの壺―多義図形というものが、われわれに何を教えてくれているのかということです。てっとり早くWikipediaより引用してみましょう―

感覚や知覚、記憶といった人間の情報処理過程を解明する認知心理学においては、知覚システムについて様々な研究成果が生み出されてきた。

その内の1つに「図と地の分化(分離)」というものがある。1つのまとまりのある形として認識される部分を「図」、図の周囲にある背景を「地」と呼び、図と地の分化によって初めて形を知覚する、というものである。

この事について、ルビンは『視覚的図形』の中で次のように論理を展開した。
“ 共通の境界線を持つ2つの領域があり、一方を図、他方を地として見るとする。その結果、直接的知覚的経験は両領域の共通の境界線から生じ、1つの領域のみか、一方が他方よりも強く作用する行動形成効果に特徴付けられる。”

要は一方が図になるとその形が知覚され、残りは地としてしか知覚されないという事を、図地反転図形の1つであるルビンの壺を例に採り説明したのである。

ルビンの壺では白地(つまり壺のように見える部分)を図として認識すると、黒地(つまり2人の横顔のように見える部分)は地としてしか認識されず(逆もまた真である)、決して2つが同時には見えない。

この最後の部分、“決して2つが同時には見えない。”、ここです。われわれがルビンの壺に、どちらか一方の図形を見ているとき、もう一方は決して知覚されないのです。“2つの顔”“壺”が同時に知覚されることはないのです。学問というのは当たり前のことを小難しく(客観的に)言うので、何をいまさらと思うかもしれませんが、そんな当たり前のことがこの図形によって裏付けられているわけです。

さて、“Tight Pants II”は、Noiseとしての側面が非常に強い作品です。音楽作品としてのNoiseには、“聴いているうちにNoiseではなくなってしまう”という宿命がつきまといます。不快な雑音や騒音とは感じられずに、単なる音としてしか認識されなくなるということです(人間の耳というのはおそろしいものです)。ところでこの“Tight Pants II”には、大きく2つの要素があります。J-PopとNoiseです。J-Popの部分は、中田ヤスタカ経由のPerfumeやきゃりーぱみゅぱみゅが分かりやすいんですが、M-2やM-5においては、非常に分かりやすい形で、これらJ-PopとNoiseを拮抗させています(M-2に関してはラジオ番組?のトークも含まれる)。さあ、ここで上の話とそろそろ近づいてきました。“2つの要素”“どちらか一方しか認識できない”という部分がリンクしてくるのです。つまりこの作品において、われわれの耳が“J-Pop”の側を聴くとき、“Noise”はまさにNoiseとして機能しているのです―もちろんどちらも耳には入っていますが、それらを同時に“聴く”ことはできないのです。Noiseを単独で放つことを避け、J-Popと併せて提示することで、逆にNoiseとしての側面を強めているという、なんとも音楽的にユニークな在り方です―だから純粋なNoiseではありませんし、かなりPopな作品ではあります。

そんな音楽的ルビンの壺な今作ですが、バランスに優れたJ-PopとNoiseの拮抗だけではなく、むしろ本領発揮?なのはM-7やM-9のような長尺なアバンギャルド・トラックにあるような気がします。M-7は英会話教材から抜き出したような男女の日常会話(だがどこか違和感があるので、単なる引用ではないかもしれない)を流しつつ、バックでElectronicなギターノイズがとぐろを巻き、その内に会話もディレイ、リバーヴで膨張し、めくるめくノイズサイケデリアの渦が広がります。‘Jon is sad’のタイトル通り、序盤2分でメアリーにフラれるジョン(笑)。そこから精神の螺旋的下降が幕を開けるような、そんな曲展開、構造も面白いです。でも最終的にはレストランで食事をしているようで(“うどんは600円です”、“じゃあ私はうどん!”、“じゃあ私も”)、Noiseまみれながらハッピーエンドといったところでしょうか。あと“すき焼きはなんですか”、“肉です”、“いいですね”のやり取りにちょっと笑った(このシュールな感じはちょっとポエムコアっぽい)。英語のテキストの杓子定規っぷりを逆手に取ったようなシニカルなセンスが光ります。今こういうことをやって、まったくVaporWaveを感じさせるトラックにならないところがカッコいいですね。

そんなアバンギャルドなM-7を踏まえた上で誕生したようなM-9は、スローなメロディと震えるノイズ、ビート、悲しみと怒りを込めた電気シャウトがさく裂する、作中でもっともシリアスなトラックかもしれません―といっても頭に“じゃあ私はうどん”とか、最後に“じゃあ私も”が使われていてちょっと脱力。M-3やM-6, M-8においても、J-Popを引用しつつ、巧みに編集することで、独自のサイケデリアをふりまいていて、単なるJ-Pop経由のNoise作品では終わらせていません。お見事。気になる方は、前作“Tight Pants”も。bandcampで公開中です。ジャケットに“大丈夫”ってあるけど、何が大丈夫なのかまったくわからないデスよ・・・(笑)。



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