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Hunters Pub – Ancient Woods. Drunken Hags. [DROWN10]

 Hunters Pub - Ancient Woods. Drunken Hags. [DROWN10]

 – Tracklist –
 01. Ancient Woods. Drunken Hags.



 - DROWN10 Teaser – Hunters Pub – Ancient Woods. Drunken Hags.


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 Release Date : 2012.09.17
 Label : DROWNING

 Keywords : Atmosphere, Doom, Drone, Noise.


 Related Links :
  ≫ Danny Kreutzfeldt
  ≫ Wäldchengarten


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“花がきれいに見えるときは体調の悪いとき”ということを、作家の阿刀田高さんが書いていた。また、やはり阿刀田さんの親類あるいは知り合いの方の話で(具体的な関係は失念してしまった)、”チラシ寿司を作るときは体調の優れないとき”という話があった。何が原因になって、花がきれいに見えたり、チラシ寿司を作りたくなったりするのかは分からないが、この場合は、それらの感覚や欲求が体調をはかるバロメーターとして機能していることになる。私の場合は簡単に”ご飯が美味しくないときは体調が悪いとき”というヤツがあるのだけれど、今書きたいことはそれではない。音楽にも同じことが言えるんじゃないかと私は漠然と思っていて、たとえば意図的かどうかはともかく、悲しいときには悲しい曲を、楽しいときには楽しい曲を聴く、というような話だ。

リスナーにとって音楽の在り方というのは、いろんな形があるだろう。BGMとしての機能性を重視する形もあるだろうし、単純に曲としての美しさ(構造や歌詞など)を堪能する形もあるだろうし、歌詞や世界観に自身を投影し(意識的にしろそうでないにしろ)自己確認をする形もあるだろう。私は、昔と比べて言葉というものに鈍感になってからは、言葉のない音楽の方を多く聴いている(なにも電子音楽とは限らない。また電子音楽にはなぜかアカデミックなイメージもあるけれど、私はそういった聴き方は残念ながらできない)。これを人にいうと、”言葉が必要なくなったのではないか”と返されたこともあるけれど、自分としては鈍感になったという感覚なのだ。

言葉のない音楽(’音’という表現がふさわしい場合もある)を聴いていると、なぜかしら自分にとっての音楽(音)の在り方を、以前より意識するようになってきた。何かを表現するということで考えたら、音よりも、言葉の方がよほど具体性がある。音は抽象的だ。けれど表現はできる。つまり抽象的な表現になるわけで、そこには多様なイメージが潜在することになる。そのイメージを楽しむのが、今の私にとっての、音楽の主とした在り方だと思う。私は音楽の中を旅して、そこから立ち上ってくる風景、イメージを貪って興奮しているのだ。旅好きな人が旅ばかり行くのと同じような感覚かもしれない(当然断言はできないけれど)。

リズムやメロディを排除したAmbient/Drone(あるいはNoiseもそうかもしれない)、これらは抽象性が高い分、イメージの余地も多く残されている。だから私はそういったサウンドも好むわけですが、そうはいっても、四六時中いつでもウェルカムなほどに好んでいるわけではない。ここでさっきの話に戻ると、つまりそういったAmbient/Droneを軸にしたサウンドがジャストフィットする精神状態というのが、少なくとも私には間違いなく存在する。それがどんな精神状態なのかはいまいちよく分からないのだけれど、求めているのはある種の逃避なんだろうと思う。中学生や高校生といった思春期は、その手段は読書だった。不幸とは思わなかったけれど、それでも早く時間が過ぎ去ってほしいと思っていたあの頃は、本という完結した世界の中にある無限の広がりが、私を魅了していた。それが今は音楽に取って代わった(そういう意味では、やはり言葉が必要なくなったのかもしれない)。

デンマークのDanny Kreutzfeldtが運営するDROWNINGからリリースされた、Hunters Pubの”Ancient Woods. Drunken Hags.”。ワン・トラック約26分のサウンドスケープ。アトモスフィリックかつドゥーミィな重量のある音空間に、不穏なギターの爪弾きがディレイする。鳥獣の鳴き声を模したような電子エフェクトが浮き上がり、消えていく様子は、まさに’Ancient Woods’。中盤から放射されるノイズ・ストームとその合間に挟まれるメランコリックなギターフレーズ、そしてまた吹くノイズ・ギター。Noiseの中に漂わす静寂感や抑制感はまるで剃刀の刃、青く燃える炎のような。嵐のあと、最後の余白で立ち上る、さびしげな風景。閉ざされた森のもつ暗さ、神秘性、物悲しさ、そして危険性や暴力性が渦を巻く、絵巻物。それは、間違いなく私を現実から隔離する。その世界に身を投じる私は、疲れているのか、悩みがあるのか、自分でもハッキリしないけれど、とにかく今の私には、このサウンドイメージはジャストフィットする。ちなみに、Hunters PubはDanny KreutzfeldtとDennis L. Hansen(Wäldchengartenの片割れ)のユニット(おそらく)。


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Artwork by László Szabó


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