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カテゴリーアーカイブ: Bad Pop

Battrie – No Harm EP [BP009]

 Battrie - No Harm EP [BP009]

 – Tracklist –
 01. Debts
 02. The World is Sleeping
 03. Perfect Health
 04. No Harm
 05. Evening Strenght



 - 02. The World is Sleeping


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 Release Date : 2012.10.30
 Label : Bad Pop

 Keywords : ChillWave, Electronica, Pop, Vocal.


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メキシコのネットレーベル、Bad Popより。カナダのミュージシャン、BattrieことJohn McGovarinの1st EPがフリーでリリースされています。影響源として、Active ChildJens Lekmanといった、ポップ・メイカーの名前が挙げられています(もちろんそれだけではないはずですが)。中でもActive Child(Pat Grossi)なんて2010年のデビューなのだから、そこから影響を受けているとなると、かなりの消化、吸収率が必要になりますし、そのサイクルの速さにはネット世代ならではのものを感じます。加えていうと、Nintendo(ファミコンのことだろう)のゲームミュージックも影響源とされている。面白い。

ベッドルーム・ポップ、ベッドルーム・ミュージックのファンというのは世界中に存在するし、また、往々にして情報収集に熱心です。そういった音楽がネットを介して配信されることが多いということも関係しているのか、良質のベッドルーム・ミュージックは瞬く間にファンの間で話題になる。そんな印象がある。だからこの作品も、こんなところでピックアップしなくても、きっとどこかしらで拾い上げられてファンの方々の目に触れるのだろう。そう思う。けれど気になった作品を取り上げるのがこのブログの趣旨であるのだから、だったらこの作品も取り上げねばなるまいて。そのくらいの力が、この作品にはある。

そう書いておいてなんだけど、私はいわゆるベッドルーム・ポップというのは、苦手だったりする。ベッドルーム・ポップというのは、ソロ的な作業が多くなる、ないしはすべてがソロ作業になるからだろうか、機材を利用しての凝ったアレンジと、ポップな佇まいが結びついているという、印象がある。ストレートにPopを鳴らすというよりは、ひねくれていたり、抽象的な方向に流れてしまったり、ぼやけたサイケデリアが振りまかれている印象があって、ときとしてその”抜けていない”フィーリングが、私を敬遠がちにさせる。もちろん例外もあって、その例外が、この作品だったりする。

M-1やM-2のウェルメイドな感覚ったら、なんだろうコレは。中でもM-2はフェイバリットだ。特に凝った作りではない。シンプルなリズムとグッドなメロディ。小さなギターフレーズと浮遊するペダルスティール。フワフワとした、ちょっぴりファンタジックなシンセ。その組み合わせなだけなのに、ここにある気持ち良さたるや。ペダルスティールの滑らかな音像も手伝ってか、なだらかなラインを持った、緑の丘陵が浮かんでくるではないか。その上には薄い、青い色をした秋空だ。細く、切れ切れに雲が漂っている。なぜ秋空なのかと問われれば、このトラックにはノスタルジックなフィーリングがあるからだ。なぜそんなフィーリングがあるのかと問われれば、感傷的なメロディもさることながら、彼のヴォーカル、声質によるところも大きいだろう。

歌における声という要素はものすごく重要だと思う。声が曲にミスマッチであれば当然曲の良さは損なわれるし(世の中にはそのような例も少なくない)、逆に声が、曲の欠けた部分を補う場合もあるだろう。当然リスナーにとっては、声自体の好みもある。Synth-PopやChillWave系のサウンドに乗るヴォーカルというのは、無機質なものであったり、中性的なものであったり、歌い手の匿名性が高いものが多い。それらについて浮世離れという表現ができるとしたら、このJohn McGovarinの声は、浮世に近い位置にとどまっている。部類としてはこの手のサウンドにとって異質なものではないし、むしろ典型的なタイプだろう。けれど人間性があって、そこにある感情とでもいおうか、表現力とでもいおうか、ふり幅、感情の機微が、私の心をくすぐるのだ。UKロックのヴォーカリストたちにも通じるような、ある種の陰りをもった歌声が、私にノスタルジアを感じさせるのだ。

スコーンと突き抜けたPopさはないけれど、この淡い幻想感、メランコリックなメロディ、そしてヴォーカルには非常に魅力がある。これからの肌寒い季節にきっと似合う。身に染みる方も多いでしょう。愛聴してください。これが完全に無料というのも恐ろしいなあ。音楽の価値というやつは、どこに向かっているのだろう。どこに落ち着くのだろう。