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小川純 – ロマンティックな予定 死 その他 [FLLR-0001]

 小川純 - ロマンティックな予定 死 その他 [FLLR-0001]

 – Tracklist –
 01. 新しい踊り
 02. 親密さ
 03. wonderland
 04. シーン
 05. 感覚の世界
 06. 朝陽が来るまで
 07. 夜の子供たち
 08. HOLIDAY
 09. かがやきの闇
 10. 軽蔑
 11. ナルシズムの方
 12. WEATHER
 13. 別人
 14. 平熱
 15. 私



 - 01. 新しい踊り



 - 12. WEATHER


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 Release Date : 2014.03.08
 Label : filler

 Keywords : Alternative, Japan, Pop, Rock, Singer-Songwriter.


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ホシナトオルが立ち上げた(というよりでっち上げた)レーベル、fillerより。日本のシンガーソングライター、小川純のアルバムが完全フリーでリリースされています。ホシナさん、もともとこのアルバムを出すために見切り発車でレーベルを立ち上げてしまったようで、先の動きについては見通しは立っていない様子です。

私がこの作品を知ったのは、Hi-Hi-Whoopeeさんの記事だし、もっと突っ込んでいえば、そこで@tacker_domingoさんが“声が五十嵐隆っぽくて好きだったりする”(引用スイマセン)とか書いたりしちゃっていたから、syrup16gファンの私としては聴かないわけにはいかなくなったのです。

小川さん本人としては、そんな誰かに似てるとか言われても不本意かもしれないし、ぜんぜん関係ないし興味ないねって感じかもしれないんですが、でも、そんな邪(よこしま)な衝動で本作に耳を傾けた私でも、この作品はよいですよ!と胸を張って言えます。言わせてください。

アコギとベースとリズム、そこに曲によってさまざまな楽器―パーカッションやマリンバ?やシンセ、ブラスなど―を取り入れていますが、作りはシンプルで、アコースティックな響きの中で、歌・メロディがすごく映えています。はっぴいえんどやサニーデイ・サービスの流れを感じる瞬間もありますし、そこから派生的にシティポップの空気を感じる瞬間もあるんですが、完全にそう感じさせないのは、クールでニヒルな都市感よりも、心の中の悩みや迷い、願いといった、強い感情性(のようなもの)が見え隠れするからでしょうか。

話が少しそれますが、私は、はっぴいえんどもサニーデイ・サービスも特別ファンというわけではありません。前者は学生時代に友人宅で酒をあおりながら聴いていたところ、何だかサイケデリックが過ぎて聴き方がよく分からなくなってしまい、遠ざけてしまったのが、イケなかったような気がします。後者も曲には心弾めど、歌詞までは…という部分が大きかったように思います。でも、じゃあなんでこの作品は好きなんだろうなあと考えるんですが、どこか悲しいんですよ、朗らかではないというか。曲にもよるんですけれど、ときおりきらめく悲しみの光が、私を惹きつけるのです。

バイト上がりに彼女の家を目指すという、もっとも日常描写的なスタイルの歌詞をもつ‘シーン’でさえ、なぜこんなに悲しみが滲んでいるでしょうか。別の言い方をすれば、物思いチック。HOLIDAYの歌詞を見ましょう―“この永い休日もいつか 終わるだろうか ほんとは単純なことを こじらせてしまったみたいさ”。心に負った傷が大きくて、何もできずにいる時間を、永い休日にたとえた歌(と勝手に思っています)。 さらに別の言い方をすれば、死のイメージが漂っているというか(作品のタイトルにも“死”が使われている)。私のいっとう好きな‘WHEATHER’の歌詞-‘アルペジオ奏でたら 天国へ連れてって ここで待っていたのは 間違えてしまったみたい’。この曲は本当に好きで、サビで一気に天上に向けて願いが伸びていくような、そんなイメージがあって、聴くたびにその美しさに恍惚とします。悲しいけれど、とても美しい何か。

考えてみれば、作品のタイトルにすべて集約されているのかもしれません。“ロマンティックな予定 死 その他”。それらが、ここには優劣なく、並列に、並んでいるのかも、しれません。私の心がなんとなく“死”の部分にリアクションしただけで、“ロマンティックな予定”や、“その他”の部分に魅せられる方もいるのでしょう。ラストの‘私’で、軽やかに、颯爽と、風のように吹き抜ける、未来への視点。それは希望というべきか。このトラックのおかげで、作品を聴き終わった後の心持ちは、澄んだ空を眺めているような、清々しいものになります。“はじめまして神様 私 といいます たいして信じてないくせに お願いばかりしてました 愛しています そんな言葉を 言えるその日まで 大事に持っています”って、ここ、すごい好きです。

さらりと耳から聴くのもよいんですが、歌詞をじっくり読みながら聴くと、また違う味わいがあって、そこも魅力的。耳で楽しんだ後は、是非目と耳で。15トラックフルボリュームのこんな作品が完全フリーって、聴かない手はないですよ。本当ありがとうございます。あと、はじめに書いた声の部分ですが、母音の響き(というか、消え方というか)が確かに、五十嵐さんに似ている。はじめ聴いたとき、ちょっとドキリとしました。


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All songs written, arranged, performed, recorded & mixed by Jun Ogawa