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カテゴリーアーカイブ: Last.fm

she – 2008

 she - 2008

 – Tracklist –
 01. entrance01
 02. 2008
 03. chiptune superstar
 04. ready steady gogo
 05. caligari rx


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 Release Page 

 Release Date : 2008.12
 Label : Not On Label

 Keywords : Chiptune, Electronic, Glitch, J-Pop.


 Related Links :
  ≫ she – Official website
  ≫ shemusic on Last.fm / on Facebook / on SoundCloud
     on bandcamp / on YouTube / on Twitter

  ≫ Imagery by Sound on bandcamp


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お前なに、今更Sheなんて紹介してんだよ?って思われるでしょうか。確かに今更かもしれません。2008年に日本のポニーキャニオンと契約を交わしメジャーデビュー、翌年に“Orion”を発表したときには各所でとりあげられたように記憶しています。それよりなにより、2003年から活動を開始したSheは、活動当初から自身の作品をフリーでネット上で公開していました。箸にも棒にもかからない作品ならともかく、Sheの楽曲、作品はいずれもハイクオリティでした。良質の作品をしかもフリーで、次々とリリースしていくその姿に、netaudioのシーンに関心を持っていたリスナーたちは驚かされました。

ちょっと話が逸れます。今でこそ“netlabel”は間違いなくシーンのひとつになっています。SoundCloudやbandcampなどのプラットフォームに先んじて、netlabelという存在があったからこそ、netaudioというものは盛り上がってきたのだと思いますし、もっといえば、音楽の在り方、価値がこれまでとは変化してきた遠因にはnetlabelの存在も関係あるのではないかと、私は考えています。しかし音楽を発表する場・手段がネット上に増えてきた結果、“作品のリリース”ということに限れば、netlabelの存在意義というのは今やかつてより弱くなっているのかもしれません(それを理由にリリースを止めた海外レーベルもあります)。であるならば、逆にリリース以外の部分でも存在意義を発揮できれば、そこにnetlabelならではの役割というか面白さが出てくると思いますし、実際日本のネットレーベルにはそういう面白さをもっているレーベルが多いと思います(私が日本人だからそう感じるのかもしれませんが)。

話を戻すと、そういったnetaudio―ネット上における音楽の在り方の変遷を見た場合に、このSheの音楽ってのは、起爆剤っていうと大げさかもしれませんが、リスナーをそのnetaudioのシーンに引き込むのに十分な力を持っていたと思うんですね。“ええ!こんな音楽がネット上にあるの!?”って、色めきたったリスナーは少なからずいたはずです。私もそうでしたから(もちろんSheの音楽だけがその力を持っていたわけではありません)。つまりシーンの拡大と発展に貢献したアーティストという、今の目線で、このSheを紹介することも、そんなに悪くないんじゃないかと思ったわけなんです。


さてSheは“She”という名前を使っていますし、イメージ映像も女性のものを用いることが多いんですが、裏にいるのはLain Trzaskaという男性です(家系的にはスウェーデン系ポーランド人のようです)。彼の曲をまだ一度も聴いたことないって人は、いいですね。今の耳で聴けますもの。でも感じるところはそんなに違わないんでしょうか。エレクトロな、アタックの強いシンセサウンド。Chiptuneのきらめき。メロディはどこか昨今のJ-Popサウンドに通じるような、エディット感がありつつも、スムースで気持ちがよいもので。この“昨今の”ってところは、いうまでもなく中田ヤスタカさんのサウンドのことで。非常にPopなフィーリング。でも、じゃあSheが彼のサウンドのフォロワーなのかっていうと、そうともいえないところが興味深い。

ちょっと突っ込んで見てみると、ヤスタカさんは1980年生まれで、Sheは1983年生まれ。同年代。ヤスタカさんがCAPSULEでCDデビューしたのは2001年、Sheが活動を始めたのは2003年。ついでにPerfumeはというと、2003年にインディーズデビュー。Sheのインタビューを読むと(あまりないけど)、確かに日本の音楽にも興味を持っているのは事実だけれど、直接ヤスタカさん絡みの音楽が影響源なりお気に入りなりに上げられたことはないと思います。つまりお互いに同じような音楽を志向しているだけであって、お互いの作品を聴いている可能性は十分にあるけれど、それが音楽性を決定づけているわけではない、そんな気がするんです(何の確証もないですけどね)。

でもSheの1stアルバムEmit and exude(2004)や、digital ambient designs(2005)なんかは、今とはだいぶ違う印象です。音も弱いし、Popに弾けるというよりは、内側に向かっている内省的なイメージが強い。 今につながるPopでアグレッシヴなスタイルを見せてきたのはPioneer(2006)が最初ではないかと思います。でもこれは音楽性が変化したというよりは、もともと彼の中にその両音楽性があったのだと思います。Lain Trzaskaは、2012年に“She”としての活動を休止し、今後の活動を“Shemusic”と“Imagery by Sound”に分けることをアナウンスしました。ShemusicではSheのイメージとなっているPopでエレクトロなサウンドを、対してImagery by Soundでは電子感はありつつも、翳りのあるAmbientな向きが強い(Post-Rockな雰囲気もある)作品を、作っていくようです。


さあ長々書きましたが、この“2008”はタイトル通り2008年に出された作品です(ジャケットイメージが雑誌みたいで“CONTINUE”ぽいと思ってたんですが、改めていろいろ見てみたら、あまり類似性なかった・・・)。今作が出た頃にはもうPerfumeの“コンピューターシティ”や“エレクトロ・ワールド”も世に放たれていたので、このエレクトロでPopなスタイル、やっぱり感化されてるのかなあと思いますし、ラストの‘caligari rx’ではHALCALIの‘Tip Taps Tip’(2005)をバキバキにエディットしてくる辺りからも、日本の音楽に目を向けていたことは間違いないですね。

ポニーキャニオンと契約以前の作品は、ほぼすべてが上記のLast.fmからフリーでダウンロードが可能になっています(公式サイトでは全作を網羅していないのですね)Pioneer, Chiptek, そしてこの“2008”あたりがもっとも聴きどころだと思いますので、気になった方は、まずはその辺りから聴いてみてはいかがでしょうか(ちなみに“Pioneer”8bitpeoplesからもリリースされています)。もともとディスコテックというかダンサブルな面が立っているので、メロディが弱いトラックでも、気持ちよく聴けるんじゃないかと思います。ディスコグラフィがよく分からん!という私のような方は、Wikipediaを参考にしましょう。あと彼は現在も絶賛活動中なので、ファンになった方は各種SNSでフォローしちゃいましょう! 以下にトラックをいくつか―



 - Pioneer (from “Pioneer”)



 - chiptek (from “Chiptek”)



CORPORATE MEDITATION – FLOPPY DISK SET ONE: INITIATION WIZARD

 CORPORATE MEDITATION - FLOPPY DISK SET ONE: INITIATION WIZARD

 – Tracklist –
 01. Ascension Webinar
 02. Nirvanic URL
 03. Dharma Pak 2.0
 04. In The FTP Breakroom
 05. Bliss Dividend
 06. Business Trip



 - 01. Ascension Webinar


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 Release Page :
  ≫ [ bandcamp ] / [ Last.fm ] Download Free!

 Release Date : 2013.01.14
 Label : Not On Label

 Keywords : Commercial Music, Electronic, New Age, Office Moods, Synthesizer.


 Related Links :
  ≫ CORPORATE MEDITATION on Last.fm / on bandcamp


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Japan, Osakaなんて文字もあるけれど、もはやどこのどなたか分かりません。CORPORATE MEDITATIONという、的を得ているんだかいないんだか、言い得て妙なその名義。今作が“FLOPPY DISK SET ONE”で、同時に“FLOPPY DISK SET TWO”も出ているんですが、どうやらここで打ち止めでしょうか(まだ分かりませんけれど)。密かに次作のリリースを期待しながら、様子をうかがっていたのですが、まったく動きはありませんね。だからここでもう、この作品をピックアップしてしまいます。

VaporWaveのタグもついているけれど、少なくともこの作品は違うと思います。2作目はChopped & Screwedなんかも使っちゃって、まっとうなVaporWaveに傾き始めている気配があって、私としては、なんか嫌だったのです。じゃあこの作品はどうなんだよ?って話ですが、全編(といっても10分にも満たない短さです)がコマーシャル・ミュージック調のニュー・エイジ・サウンド。もちろんVaporWave自体がNew Ageとは無関係ではないし、そのエッセンスをもったトラックは沢山たくさんあると思います。でもこんなに潔いのって、ちょっとないような気がします。私の中では、前にとりあげたchris†††(John Zobele)の“包容”が一番近しいイメージです。

ラジオから流れる高速道路の交通情報のうしろでかかってる音楽みたいな、あるいは、ローカルなTV局が不動産情報を流す、そのうしろでかかってる音楽みたいな、あるいはCDレンズクリーナー使うと聴こえてくる音楽みたいな、人畜無害、重量感や感情性など無きに等しいこの佇まい。自分がこういう手触りの音楽が好きだと気付いたのは、中学時代にラジオドラマを聴いていた時かもしれません。ドラマのうしろで聴こえる(ニュー・エイジ/フィルムスコア調の)音楽が気になって仕方ないんだけど、でも手段がなさ過ぎて結局知りたい情報にたどり着けなかった思い出があります。

ここにあるのが正直サンプルベースなのか、オリジナルなのかも分からないんですが、いずれにしろ、なんだか既聴感のあるメディテイティヴなニュー・エイジ・サウンドがリスナーの作業効率をあげてくれることでしょう。サウンドの的が絞られている分、VaporWaveよりも、いわゆる“Mallsoft”サウンドに近いのかなあとも思うんですが、よく考えたら私はMallsoftの在り方がよく分かってませんでした。だからもうこの手のサウンドは“CORPORATE MEDITATION”って言ってしまえばいいんじゃないかと思います。それ(CORPORATE MEDITATION)用のBGMってことで。スピリチュアルな雰囲気のモノについて回る、得体の知れなさからくる、ある種の胡散臭さ、いかがわしさも含めて、好きですね。