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Japorn – やくそく EP (Yakusoku EP) [SSR​-​RR​-​0029]

 Japorn - やくそく EP (Yakusoku EP) [SSR​-​RR​-​0029]

 – Tracklist –
 01. Change Me
 02. ひとりじゃない Hitori Ja Nai
 03. Forever yours. Empty
 04. Eventually
 05. キセキ Kiseki
 06. Weak Smile
 07. ピアス Piasu



 - 03. Forever yours. Empty


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 Release Date : 2014.01.28
 Label : SPLITTING SOUNDS RECORDS

 Keywords : Ambient, Japanese, J-Pop, Pervert, Sample-Based.


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アルゼンチンはブエノスアイレスのトラックメイカー、Japorn(ジャポルン)の作品。SPLITTING SOUNDS RECORDSから実質フリーという形でリリースされています。“Japorn”というネーミングは当然日本とは無縁ではなくて、ちょっと調べればすぐに分かりますが、これは日本のポルノを指す言葉です(国内外とわず通用するのかな?)。Japorn自身、音楽活動の名義を考えたときに、自分が持つジャパニーズ・カルチャーへの興味・関心、あるいは好意を表すものにしたかったようですが、しかしありふれたものにはしたくなかったようです。そこで、多くの人が日本に持つイメージ―“freaky country, full of weird people”―から、性風俗の方向へイメージが派生したのでしょう、“Japorn”というネーミングにいきついたようです(Japorn自身が特にそういった事物を好んでいるわけではないことは、明言されています)。

SoundCloudでは、AKBや大塚愛など、J-Popのカヴァーを披露していますが、そういったJ-Popへ直結するようなサウンドがJapornのスタイルではありません。特徴的なのは、日本語のセリフのサンプリング。日本のドラマや映画、MVなどから抜粋したセリフをトラックの中に埋め込んで、なんとも不思議な世界を作り上げています。バックに流れているサウンドがサンプリングなのか、自身が作成/演奏したものなのかは分かりませんが、基本的にはHip-Hopのリズムと不定型なシンセを組み合わせたChillWavyなもの。‘Forever yours. Empty’では、ミニマルなピアノが印象的。サウンド自体の押しが強くないので、つまりは挿入されている言葉たちがトラックの中でメインをはっているわけで、この言葉たちがサウンドのイメージを決定づけている。

サンプルにしているセリフのネタ元は、分かるだけでもいくつかあります。“恋空”“脳男”“蛇にピアス”、そして泉沙世子のMV“スクランブル”など。今作を通して聴くと、なんとなくですが、用いられているセリフ、言葉たちに共通項があるような気がしてきます。混沌を貫く純粋さのようなものが、どこかから、感じられてきます。純粋を求めるがゆえの狂気、あるいは純粋ゆえの狂気(これは“脳男”にリンクしやしないだろうか)とでもいうか。この感覚が、Japornという言葉で表される、性風俗に絡む一連の事象とも、決して無縁ではないように思えるんです。ひいては、私の好きな花村萬月の初期作品群を読んだ時の読後感と、非常に似通ったものに感じられて、今作はさらに私の中で特別なポジションになりました。

つまり今作は特異な作風ながら、見事なことに、Japornという音楽名義を裏切らない作品になっているし、また、タイトルの“やくそく”という言葉にある、誰かの強い想いを表現することにも成功しているのです。音楽的にどうこうということは正直ないんですが、使われている日本語の意味や、その言葉を発する者の心情までをも、考慮していなければ作れない作品だと思います。これがブエノスアイレスから発信されるというのが、面白いし、素敵なことではありませんか。

今作の前にある「Introspection」(deleted!)や、今作以降にSoundCloudで公開されているトラックたちは、変わらずサンプリングはありますが、ここまで言葉を前面に押し出していないように思えます。なのでこれをJapornのスタイルとするのは早計かもしれませんが、個人的にはこの新しいシネマティック・サウンドを継続してほしいです。

今作の私的ハイライトは‘Forever yours. Empty’。Japornのbandcamp上では“栗原 類 inspiration ~”という言葉があったので、何のことかと思ったら、上でも触れた泉沙世子のMV“スクランブル”、これに栗原類が出演しているのですが、そこでの彼のセリフをほぼそのまま利用しています。ラストでオチのジングルように使われるフレーズが、“スクランブル”のイントロという、面白い構造です。


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