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カテゴリーアーカイブ: Yae Records

Shinnosuke Sakamoto – 雨薫る

 Shinnosuke Sakamoto - 雨薫る

 – Tracklist –
 01. Intro
 02. Cloudy Girl
 03. Lightning
 04. 猫と紅茶
 05. Goutte de lune



 - 02. Cloudy Girl


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 Release Page :
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 Release Date : 2014.06.16
 Label : Yae Records

 Keywords : Cloudy weather, Electronica, Glitch, Piano.


 Related Links :
  ≫ Shinnosuke Sakamoto on Facebook / on SoundCloud / on Twitter


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Shinnosuke Sakamotoの“雨薫る”。これまでにも何度か作品を紹介させていただいた、日本のネットレーベル、Yae Recordsからのリリースです。

まず何の先入観もなしに聴きました。“Intro”。Pianoの音が悲しげに響きながら、突如鋭く、Glitchのように軋む。その辺りから、日本らしい繊細なElectronicaが展開していくのかと予想したわけですが、どうも違うようです。M-2‘Cloudy Girl’。ミニマルに連なるPianoの旋律と、やはり鋭い電子エフェクト、これらを乗せて、底の方でリズムがうごめいている。

ちょいとプロフィールを読んでみれば、なるほどShinnosuke SakamotoさんはProgressive Houseにも傾倒しているようで、それをふまえた上で聴いていると、確かにリズムの展開にある加速感はProgressiveにも思えます。と、でもここで大事なのは、というか私が面白く感じたのは、このトラック‘Cloudy Girl’から立ち上るイメージというヤツが、見事に‘Cloudy Girl’なところなんです。頭上にある曇り空、今にも雨が降りそうな気配。そこを眺めたときに我々の心に去来するのは何だろう。きっと緊張感と不安感。Pianoの音色ってのはときにサスペンスフルに響きますが(映画のスコアとかが端的ですね)、その響きを利用したElectronicなサウンドで、緊張と不安をここまで巧みに表現したトラックを、私は聴いたことがありません。曇り空の下を駆けるガール(そう、ちょうどジャケット画像のような)が、目に浮かぶことは必至なのです。すごくイマジネイティヴ。

全編が続きものになっていると考えると、次の‘Lightning’は雷でしょう。加速するリズムと連打される鍵盤の音、そして背後でカオティックにうごめく電子音たちは、リスナーの心を性急感で襲います。前トラックの緊張と不安が形を取り、雷雨に襲われ、いよいよ家路を急ぐガールが、ここでまた描き出されます。そしてここから間髪入れずに滑り込む次の‘猫と紅茶’がまたお見事。ガラリと趣を変えて、哀愁を漂わせたメロディがボンヤリと追憶的に流れていく様は、さながら無事に家に帰りついたガールが、窓から外の嵐を眺めているような。紅茶を飲みながら、膝の上には愛しい飼い猫。窓の外は激しい嵐だけれど、とりあえず私の前には安心がある―そう外を眺めながら、やがて不安を安心が浸食していき、まどろみが訪れる。

ラストの‘Goutte de lune’はフランス語のようだけれど、どんなニュアンスが込められているのでしょう。私などは上記の流れから単純に夜の訪れを表現しているのだと解釈しているのですが。サウンドも前半部よりはスローダウンして、Pianoは廃され、代わりに月光のような透き通った電子音が瞬いています。アトモスフィリックな空間の中にも低音が差し込まれていて、この辺りが巧みに夜を演出しているように感じられます。

ということで、繰り返しになりますが、非常にイマジネイティヴな作品です。風景を描写するだけでなく、その風景の中に現れる人物の心情にまで通じていくような(歌詞がないのにも関わらずだ!)、そんなElectronic soundというのは、ちょっとなかなかないような気がします。ジャケット・イメージも含め、トータルで世界が完成されていて、そのまとまり具合もお見事。鋭いセンスが光る、“雨薫る”というタイトルもキマってる。よい作品です。これからのリリースにも期待しちゃいますヨ!


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All tracks produced by Shinnosuke Sakamoto
Art work by Eriko Hatori

(CC) by – sa 3.0



Ryuta Aoki – MINUS 8

 Ryuta Aoki - MINUS 8

 – Tracklist –
 01. Smile for me
 02. in the room
 03. また明日
 04. ぽつまる
 05. HanaHana~alt sax ver.~
 06. Midnight Navigation
 07. Path to Choose



 - 01. Smile for me


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 Release Page :
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 Release Date : 2013.07.08
 Label : Yae Records

 Keywords : Ambient, Classical, Electronica, Piano, Melodic.


 Related Links :
  ≫ 青木隆多 Ryuta Aoki Official Web Site
  ≫ 青木隆多 on MySpace / on Twitter


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日本のネットレーベル、Yae Recordsより。これまでにも何回か作品を紹介させていただいた、青木隆多(あおき・りゅうた)の新しい作品が、実質フリーでリリースされています。

Pianoを主軸にしたAmbient/Electronicaサウンドは健在で、安心して聴くことのできる作品です。Pianoの透明感ある響きを生かしながら、その中で巧みに光と影を生み出す、いわば二面性のような部分も変わらず発揮されており、時間でいえば朝から夜までを、感情でいえば喜哀楽(怒は抜かして)を、季節でいえば春夏秋冬を、感じられるような、幅広い聴き心地がある。

冒頭のM-1は、ピアノのメロディに、リズムやギター、ストリングス調のシンセを織り交ぜた、とてもシネマティックなトラック。メロディには感傷的な調子があって、タイトルの‘Smile for me’と合わせて考えると、このサウンドの中にあるのは‘願い’ではなかろうか。風に消えていく背中に向けて、心の中で願いをかけるような、切ないシーンが見えてくる。M-3ではピアノの長い余韻や、深い響きと拮抗するような、チャイルディッシュな音色が印象的です。深い夜の底でゆるやかに流れる時間と、今日という終わっていく日への哀愁、そして明日への光が、ひとつのトラックの中に内包されている。

‘ぽつまる’はインタールード的な役割なんでしょうか、非常に短いながら、作中でもっともにぎやかなトラックで、トライアングルやギロとおぼしき音色まで聴こえてきます。ずんぐりむっくりしたキャラクターがよちよち歩いているような、明るく可愛らしい調子は、心を和ませてくれます。続く‘HanaHana~alt sax ver.~’は、ピアノとアコースティックなギターの音色を従えた、アルトサックスの音色が全編を彩っています。とてもおおらかでジェントルな波を感じられるトラック。耳を凝らすと、バックにささやかながら電子的エフェクトが聴きとれて、これまでの作品と同様、おおらかさの裏にあるデリケートな部分に気付かされます。

この陽性のトラックを通過したあとは、再び悲哀をにじませた二つのトラックによって、今作は締めくくられます。‘Midnight Navigation’が、深夜の孤独な物思いを描いているとするならば、ラストの‘Path to Choose’は、その物思いの結果導き出された、少しだけ悲しい選択を思わせる。悲しいんだけれど、でも清々しさがあって、だから心は前を向いているような。人生は選択の連続です。われわれは常に選択しながら、毎日を生きている。悔やむことも多くある。でも、‘Path to Choose’は、選んだ道に間違いはないと、そっと(ほんとにそっと)背中を押してくれるような、やさしさを秘めたトラックで、M-1と並んで今作のフェイバリットです。

ほんとにどの作品でもクオリティの高さが維持されていて、安心して耳を任せられます。これまでの同レーベルからのリリースも、自信をもってレコメンドできますし、決して裏切られないでしょう。これまでの作品を未聴の方は、是非さかのぼって聴いてほしいです。


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All tracks Composed and Arranged by Ryuta Aoki
#5 Saxophone by Masumi Hosokawa
Art work by Ryuta Aoki


(CC) by – sa 3.0