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タグアーカイブ: Easy Listening

Micropolis A.D. – The Yotel EP

 Micropolis A.D. - The Yotel EP Cover

 – Tracklist –
 01. Yotel
 02. On Monday When I’m In My Hyundai
 03. Calamari
 04. After Hours
 05. Quantcast Strategies
 06. Softwear
 07. Yobot
 08. Mondria
 09. The Future
 10. Happy Midium



 - 01. Yotel


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 Release Date : 2016.04.12
 Label : Unknown

 Keywords : Easy Listening, Electoronic, House, Midi, Smooth, VaporWave.


 Related Links :
  ≫ The Pod Village on bandcamp


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The Pod Villageというのがレーベル/コレクティヴなのか、はたまた一個人による複数名義の作品をリリースするための場であるのか、判然とはしませんが、私としては何となく後者ではあるまいかと思っています。まあ、そうだとしても、そうじゃなくても、何がどうなるわけでもないんですが。詳細は不明ですが、そんなThe Pod Villageのbandcampからリリースされているのが、Micropolis A.D.による“The Yotel EP”。他にMicropolis B.C.という名義もあるけれど、これは明らかに同一人物による別名義だろう。

ところでThe Pod Villageって何だろうなあと話を逸らしてみますが、このbandcampのヘッダー画像にある不思議な建築物、どこかで見た気がするなあと、調べていくと、どうやらこれは台湾新北市の区である三芝区(さんしく)に建設途中であったリゾート地“三芝飛碟屋”の様子。過去形で書いたのは、1970年代後半に建設が始まったものの、さまざまな理由により中途でプロジェクトが中断、結局そのまま放棄されてしまったからです。つまり廃墟。しばらくは放置されていたようですが、2010年には取り壊されて今は存在していないようです。UFO HouseやPod Cityと呼ばれ、オカルティックなうわさも手伝い、一時は注目も集めたようで、画像を目にした方も多いでしょう(気になる方はちょっと調べればいろいろな情報が出てきますので是非ご自身で)。

そんな廃墟と化した上で取り壊された近未来型建築物のイメージを利用したThe Pod Villageなわけですが、このイメージは今作のタイトル“The Yotel EP”にもつながってきます。私は知らなかったのですが、このYotelというワード、イギリスのYo!社(YO! Company)が日本発祥(諸説あり)のカプセルホテルを未来的に解釈、その形式を取り入れて運営しているホテルの名称だそうです。つまるところ近未来型カプセルホテルとでもいうか。で、どうですか、先のUFO Houseとカプセルホテル、蜂の巣じみた密集した居住空間というところで、何とはなしにイメージが重なりませんか。さらに言えばMicropolisというワードは、リアルタイム都市経営シミュレーションゲーム“SimCity”(シムシティ)をオープンソース化・フリーソフトウェア化したゲームに由来していると思われる。これまた都市の発展につれて建物は林立、高層になり、人口は増加…とイメージは先の密集感につながってはいかないだろうか。

そんなように近未来型都市的密集感、そして忘れてはいけない未来的でありながら廃墟という荒廃感・寂寥感あるいは郷愁、とくれば、ここから導かれる音楽性というと何が思いつくか、これはもうVaporWaveではあるまいか(いやそこに限る必要はないもちろん)。

といっておきながら、今作はそんなにコテコテとしたVaporWaveではない、どころか、VaporWaveを通過していない耳だと、その香りすら感じられないかもしれない(だったらここまでの道程は何だったんだとお思いでしょうかみなさん。そうですね、何だったのか自分でもよく分かりません)。Houseなリズムに、Easy Listeningともいえるスムースでrefreshingなメロディ。トラックによってはLiquid Funkな佇まいも感じられる。けれどちょっと待ってみよう、ときおりその音色に感じられる前時代なニュアンス、Midiというタグも使われているように、そこはかとなく漂うレトロスペクティヴな志向性。さらにいえばEasy Listening~NewAgeに一歩踏み込みかけたような、メロディに漂うリラックスでスムースな調子。これはまさにVaporWaveの何たるかに共振。

その上でサウンドを聴き直すと、スローなリズムが多いVaporWaveの中にあって、この音色、このメロディに、細かく刻まれたビートを組み合わせたスタイルというのもなかなかユニークな存在ではあるまいか(いやもちろんここにはミドル~スローなトラックもあるけれど)。センスという言葉を使うのが嫌いな方もいらっしゃるかとは思いますが、私はセンスという言葉を使いたい。ナイスセンスだ。でもほかの作品ではまた何か違うんですよねえ。もともとVaporWaveを標榜してたわけではなくて、作ってた音楽にたまたま重なる部分があっただけ、みたいな。そんな感じがします。あとpost-zooってタグはどういう意味なんだろ。


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(CC)by – nc – sa 3.0



Karen Weatherly – A Separate Reality (2nd Edition)

 Karen Weatherly - A Separate Reality (2nd Edition) Cover

 – Tracklist –
 01. Iridescent Valley
 02. Magical Passes
 03. Fellow Travelers of Awareness
 04. Journey to Ixtlan
 05. A Separate Reality
 06. Ayahuasca Safari
 07. Enchanted Desert
 08. Across the Prairie
 09. Units of Meaning
 10. On Alien Ground
 11. Peace in Every Step
 12. Mysterious Winds



 - 02. Magical Passes


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 Release Date : 2015.09.03
 Label : PHAṅTom ᴀᴄᴄᴇSS haze

 Keywords : Carlos Castaneda, Easy Listening, Melodic, Mystical, Midi, NewAge, Spiritual, Synthesizer.


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濃厚なMIDIサウンドだ! ☩(avaoneanaeon)改めPHAṅTom ᴀᴄᴄᴇSS hazeがお送りするKaren Weatherlyの作品。2nd Editionということでトラックがひとつ増えて、いくらかリマスターが行われている様子。

実際MIDI音源なのかMIDI風の音源なのかは私には分かりかねますが、いずれにしても90年代が全盛と思われるこのサウンドを今鳴らすことの意味というのはなんなのでしょうか。単純な懐古主義というのもあるかもしれませんし、むしろ逆に今だからこそ新鮮に響くことを意識しているのかもしれません―それが革新性に結びつく可能性が残されているのかどうか、私にはよく分かりませんが、たとえばbandcamp上でも“midi”のタグをあえて用いている作品はそう多くはありません。

そう考えると、このサウンドが作品の世界観にマッチするから、という理由がやはりもっとも適当に思えてくるわけですが、じゃあこの作品の世界観って何だろうって気になってしまったのです。そもそも作り手のKaren Weatherlyってどなたですかという話なんですが、あいにくこれは分からず。レーベルも無口なので、多くは語られておらず(まあどうしても知りたければ訊いてみればいいんですけどね)。クレジットにあるThe Learning Company ®ってのは以前に“原子カフナCAFE”を紹介したReelLife Music & Communicationsの新しい名義ですが、☉ Super CD-ROM² ☉ ってのは、何なのだろう。いやハードとしてのSuper CD-ROM²は存じておりますが、ここではその意味ではないような気がするのです。よく見たらタグにも“cd-rom”って付いてるしねえ、しかも“game”ってタグもあるし、じゃあもしかしたらこの作品自体が!何らかの!たとえばSuper CD-ROM²のソフトへのオマージュとか?なんて考えて画像検索するじゃないですか(楽しいですよねこういうの)―

そしたら別の道が開けたわけですが、まんまCarlos Castaneda(カルロス・カスタネダ)の著作“A Separate Reality”のペーパーバック版の表紙だった・・・(余談を言えば、M-2も彼の著作のタイトルだ)。さらによく見たらレーベルのbandcampの壁紙も同じ作品からとられている・・・何か通底するテーマがあるのだろうか。まあ私はカルロス・カスタネダの著作も読んでいないし、人物についても何ら知らないわけですが―

ドン・ファンを通して語られた非西欧的な知恵は読者を魅了し、アメリカ合衆国を中心として世界に広がったカウンターカルチャー全般、とりわけスピリチュアリズム、ニューエイジ運動などに影響を与えた。その背景には、ビートニク世代から受け継がれた禅や道教といった東洋思想への関心や、「他者の思想」によって西欧中心の世界観を反省しようとする人類学的な思想背景があった。(from Wikipedia)

―ということで、少なくともNewAgeやSpiritualという部分で、今作と繋がるのではないかと、考えることができます。著作を読めばあるいはもっと理解が深まるのかもしれませんが(“A Separate Reality”は“分離したリアリティ”のタイトルで翻訳が出てます)、そこまでは、しない! でもあんまりメロディ的にはNewAgeやSpiritualな瞑想感がないような気がする。・・・ああ、なるほど、著作の内容を調べてみると少し見えるものがある。薬物使用の幻覚体験なのではないかとか“そういう”部分は置いておくとして、ファンタジーというか、冒険譚的な部分も多分にあるのではないか、ジャケットに描かれている砂漠も確かにキーワードになっているようだし、そうすると、今作の”adventure”や“desert”というタグにも納得がいく。その物語をgameに見立てて、サウンドトラックを付した、という成り立ちも考えられるが、しかし、cd-romってあえて付ける意味が分からない・・・・。

東洋思想も見られるのだとすれば、M-3の人によってはズッコけそうな和テイストにも頷けるではないか。失礼かもしれないが、私はこの歌謡曲にも通じる軽快なトラックを聴いて、大好きな“がんばれゴエモン2”のBGMや、“かまいたちの夜”の‘わしが香山や!~男の大往生~’とか想起したクチなのですが、他にそういう人いませんか、いないですか、そうですか。しかしここでカルロス・カスタネダから香山誠一がつながるなどと、誰が想像したでしょうか(勝手につなげただけ)。

例によってまったくサウンドに触れていなくて申し訳ありませんが、とにかくメロディに富んでいて、フォークロアっぽい調子もあったりして、そこも私の琴線をくすぐるんです(どこにルーツがあるのか自分でもまったく分からないですが)。Karen Weatherlyはこのレーベル以外で名前を見かけませんが、気になった方はもうひとつ“Vision Quest EP”をリリースしているのでそちらも聴いてみてください。PsychedelicでSpirituralな見た目に反して、非常に聴きやすい内容のMIDIサウンドです。



 - Wild Rose Dreamers Lodge (from “Vision Quest EP”)


そういえば“Vision Quest”って映画あったなあ・・・ではなくて、ここではネイティヴ・アメリカンの儀式のそれでしょう。

ちなみに“separate reality”と“game”をキーワードに調べると、今や伝説と化したホラーゲーム“P.T.”が浮上しますが、まあこちらは関係ないでしょう(?)。そしてああ、結局The Learning Company ®は今作にどう絡んでいるの・・・。


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Note :

An Ethereal Simulation That Builds Real-Life Wisdom & Spiritual Understanding

Somewhat Remastered 2nd Edition

☉ Super CD-ROM² ☉

The Learning Company ®



鹿 Corp. – BRIGHT MOON COTTAGE

 鹿 Corp. - BRIGHT MOON COTTAGE

 – Tracklist –
 01. lulu
 02. internet
 03. your flight will be arriving soon
 04. underwater webscapes
 05. open source
 06. goldstein mylar
 07. clear cache



 - 06. goldstein mylar


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 Release Date : 2014.12.12
 Label : Not On Label

 Keywords : Ambient, Easy Listening, Lounge, Melodic, NewAge, VaporWave.


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いきなりですけれど、私“がんばれゴエモン2”のBGMがすごくスキなんです。1作目はプレイの記憶があまりないし(クッソ長いのは覚えてます。ファミコン版にはセーブもパスワードもないので通しでプレイしてクリアするしかなかった!)、スーパーファミコンになってからの“ゆき姫救出絵巻”や“奇天烈将軍マッギネス”なんかも好きなんですが、やっぱり一番はファミコンの“2”なんです。あ、じゃあ聴かせろよって話だと思うので、リンクをば―NES Ganbare Goemon 2 Soundtrack。よく言われることですけど、ファミコンやスーパーファミコンのROMカセット時代のBGM/VGMって、使える音色や鳴らせる音数そのものが少ないといった多くの制限の中で試行錯誤を凝らして、よくぞここまで記憶に残るミュージックを作り出したなあってのが、沢山たくさんありますよね。ドラクエⅢの“勇者の挑戦”なんて、あのゾーマの禍々しいくせに高貴なキャラクターと、ラストバトルの緊張感をドンピシャで演出していて、魂震えますよ(オーケストラ版よりもファミコン版の方が燃える)。きっと一生忘れないんだろうなあと思うし、そう考えるとスゴくないですか。いやスゴいです。

んー相変わらず話がどんどん逸れてるなあ。どこに落としたかったか、忘れそうになってますが、そうそう、なんで“がんばゴエモン”の話をしたかっていうと、この作品の‘open source’にある、オリエンタル、エキゾチックな調子とか(でもぜんぜんソッチじゃないけどね)、‘clear cache’にあるちょっとアッパーな感じっていうのかな、楽しそうな感じとか、MIDIっていっちゃうと言い過ぎだけど、それっぽいニュアンスとかが、私の中で結びついていったのでしょう。簡素なサウンドでオリエンタルでメロディがあって、と、そういう感じが“がんばれゴエモン”のBGMにあるイメージに重なったのでしょう。ただそれだけなんだけど、なんか書き方を踏み外した気がします(笑)。収拾できないので先へ行きましょう。

この鹿 Corp.の作品はVaporWaveといわれるサウンドの美味しいとこどりな気もします。美味しいところというか、VaporWaveの中でもいくつかあるフォーマットをわりと広く扱っているので、一粒で何度も美味しいような、そんな作品です。M-1は典型的なChopped & Skrewedになっていますが、M-2, M-3はMallsoft/Easy Listening~Lounge、M-4はそこからややMIDIチックに、M-5はNewAgeに傾き霊妙なスピリチュアルバイブをさく裂させ、M-6はGlitchyなスムースジャズでシティナイトを演出、ラストはスーパーマーケット・フュージョン的な清涼感溢れるEasy Listeningです。

アブストラクトな調子もなし、トラックタイトルもシンプルだし、サウンドも小粒ながらメロディが立っており、耳に障りません。カロリーハーフなあっさり感が美味しいです。ギトギトなVaporWavenの油にまみれてしまったVaporaholicな方々には時すでに遅しかもしれませんが、たまにはカロリー気にするのもよいんじゃないですかね! 探せばこういう低カロリーなVaporized作品は散見されるでしょうが、この出会いも何かの縁です。よしなに。



Noble Oak – improvised memories

 Noble Oak - improvised memories

 – Tracklist –
 01. try to find
 02. rewrite the endings
 03. the sun won’t rise
 04. partita
 05. shorthanded



 - 02. rewrite the endings


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 Release Date : 2015.10.10
 Label : Not On Label

 Keywords : Ambient, Easy Listening, Melodic, Piano.


 Related Links :
  ≫ Noble Oak on Facebook / on SoundCloud / on bandcamp / on Twitter / on YouTube


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以前にも“We Decide / Heaven EP”を紹介した(だいぶ前ですね。ちなみに現在はフリーでの入手は不可です)、カナダのミュージシャン、Noble Oakの新しい作品がリリースされています。

“We Decide / Heaven EP”もそうですし、他の作品もですが、Noble OakといえばドリーミィなChillWaveのイメージを持っていました。ヴォーカルも活かした、ときにメランコリックにも響く、珠玉のヘヴンリーサウンドにはファンも多いですし、SoundCloudの再生回数も決して少なくありません。とうぜん評価も高いです。今聴きなおしても、すばらしいトラックばかりです。

そんな彼が今作において披露しているのは、ピアノ。“improvised piano recordings”と表記があります。ChillWaveサウンドは鳴りを潜め、全編(ほぼ)ピアノの音しか聴こえてきません。ドラムもありません。だがしかし、どうでしょう、このすばらしさ。舌を巻きそうです、いや巻きます。

ディレイやリバーヴなどのエフェクトはかけられていますが、そのあたりの音作りで従来のChillWaveサウンドを彷彿させつつも、もたらされる印象がまた異なります。ピアノのイノセンスな響きがもたらす漂白的な効果に、彼Noble Oakが生み出す抜群に抒情的なメロディが組み合わされ、訪れるのは記憶(あるいはシーン)の想起と、その霧散。

空間の使い方が実に巧みで、ディレイを使って満たしたり、あるいは逆に間をとったりと、その様はまるで雲の流れのようです。雲は流れながら、ときに空を埋め、またときにはポッカリと隙間を空ける。何の意図もないその動きは、けれど、だからこそ無心をもたらし、魅力的なのです。その動きを見つめる中、リスナーは緊張と緩和、あるいは抑制と解放を行き来する―ピアノの音色を聴きながら、おぼろげな記憶を回想し、ときにそれを糧とし、ときにそれを空に放つのです。清々しさのあとに、そしてまた雲は流れ、訪れる無心。ただ流れに身を任せ、何も考えなくてよい瞬間というのは、気持ちが良いものです。

そんなちょっと悲しい雲の流れ―それは記憶の流れ―をイメージさせる今作、従来のChillWaveサウンドとは異なりますが、すばらしい作品だと思います。彼の類まれな素養を感じさせます。

彼のChillWaveを未聴の方は、以下のトラックを聴いてみてください、あるいはSoundCloudへゴー。



 - Walk On Me



 - This Wave



endless natsuyasumi

endless natsuyasumi
(image from Speed Up!



 - the long journey



 - shining times


予定のない休みとはいえど、部屋にいると暑くて何をする気力も奪われてしまうので、外に出るようにしている。もちろん外も暑いのだけれど、建物の中はたいてい涼しい。私は買い物をし、飯を食い、考え事をしながら歩く。

フト思ったのは、平日だというのに、妙に賑やかだということ。決して観光地などに来ているわけでもなく、たかが隣町なのに。もっと閑散としていてもいいはずだ。実際いつもはひっそりとしている町が、妙に活気づいているではないか(いやそれもたが知れているのだけれど)。

学生のグループが複数プラプラしているのを見て、ようやく気付く。

“ああそうか、夏休みじゃないか”と。

それでこんなに静かな町にも多少なりとも賑わいがやってきたということか。

私は心の中でひとりごちる。

すべての行動にワクワクが伴っているような、その若いグループたちのはしゃぎように、私はくすぐったい気持ちになってしまった。

炎天下のホームで、ベンチに座り、列車を待つ。

駅に隣接した惣菜屋の窓から、陶器の触れ合うカタカタという音が聞こえる。空腹が刺激される。

自分にはもう、あんな“夏休み”は二度とこないなあと、ボンヤリと、しかし実感した。

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一向にまとまったリリースをしてくれないので(そこにはいろいろな事情はあるだろうけれど)、変則的な形で紹介しますが、このendless natsuyasumiのノスタルジックなサウンドが私は大好きなのです。ジャンルで括れば、やはりVaporWaveになるのでしょうが、その中でも私の大好物であるノスタルジア特化型VaporWaveがさく裂しています。以前ミックステープにもしれっと入れておりましたが、依然ディグられている気配がないのは、やはり宣伝活動を積極的にしていないからでしょう。ネット上のスペースもSoundCloudくらいしかないようですし。

2014年末からの活動のようですが、決して多作家ではなく、現時点で公開されているトラックは8トラックのみ。トラックのリリース間隔はどんどん間遠くなっていて、最新のトラック‘the long journey’と、‘contemplation’の間は4カ月空いている。待たせすぎということはないけれど、このままリリースが遠のいて、ある日ふいにいなくなっちゃうのかもなあ、なんて思いも持っています。

サンプルベース、かどうかはハッキリしませんが、イージーリスニング調のゆるやかでリラクシンなメロディを使いつつ、エフェクトを加味することで、リスナーの内なる思考のベクトルを未来から過去へと変換し、すなわちノスタルジックな景色を見せてくれるのです。

一番好きなのは‘shining times’かなあ。なんといってもシャイニングタイムスですよ。輝く時間。上に書いたような私の心情にすごくフィットするんだよなあ。“あの輝き”に対するノスタルジアと、“もう戻らない”という事実に対する、一抹の空しさ。ちょっと感傷が過ぎるかもしれませんが。

“終わりがあるということは救いなんですよ”と言ったのは、中学の時の倫理の先生だったか。それは命についての話だったけれど、だから終わらない夏休みなんていうのも、それはそれで・・・ねえ・・・怖いものなんだろうけれど。でも人は手に入らないもの、手に入れてはいけないものにこそ、憧れるのでしょう。endless natsuyasumi。

トラックは今現在すべてフリーでダウンロード可能です。気になる人はゲット。



新しいコンピュータのOS 98 – 2

 新しいコンピュータのOS 98 - 2

 – Tracklist –
 01. Intro.wav
 02. バーチャカート1.5
 03. IBMのPCセール
 04. Br☯wse ☯nline
 05. 無料ダイヤルアップ!!
 06. Deep



 - 04. Br☯wse ☯nline


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 Release Date : 2015.03.28
 Label : STC Records

 Keywords : Easy Listening, Electronic, Melodic, VaporWave, 80s.


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STC Recordsから、まさかの新しいコンピュータのOS 98の新作がリリースされました。レーベルとしてもどうやら機能しているようで、意外にまともだった(失礼な物言い)! でもタイトルが“2”ってホントに投げ遣りだな・・・。

でも中身はしっかりした作りになっていて。シンプルなサウンドで、シンプルにメロディを鳴らしています。一発目の‘Intro.wav’からマンボのリズムで意表をつく出だし。典型的なVaporWaveとは異なるフィーリングに、ここでまずは「おっ」と惹きつけておいて、M-2‘バーチャカート1.5’で、80sなビッグドラムとキラキラしたキーボードの音色にシンセブラスのような華やかなサウンドで、煌びやかな瞬間を演出。またしても意表をつかれます。

さらにM-3‘IBMのPCセール’は、同じフレーズをひたすら反復するミニマルなトラックですが、どうもテンションが高い。グイグイと高みに上るようなサウンドに、いささか呆気にとられます。M-4‘Br☯wse ☯nline’が個人的に作中のクライマックスで、ここでもカラフルなキーボードがトラックを引っ張っていくのですが、途中から!ギターの音が!入ってくる!(たぶんギターだと思います)。しかもやたらとバーストしていて、VaporWaveを標榜するサウンドで、こういうギターの入れ方するのって、あまりないような気がします(VaporWave経由のFuture Funkは除きますが)。すごくエモーショナル。

‘無料ダイヤルアップ!!’もやっぱりブギーでMelodicなギターフレーズがトラックのど真ん中で鳴っていて、確かにVaporWaveにありがちなFusion/Smooth Jazz的なサウンドに近いような気もしますが、しかし特異なイージー感を放っています。Chopped & Screwedの影もないし、ストレートに潔く突っ込んでくる爽快感は、やはりユニーク。ラストの‘Deep’は落ち着いたサウンドですが、キラリとした音色とゆるやかなリズムを活かしたチルな音像になっていて、きれいに締めくくられます。そのように、イントロを設けたり、ラストをチルなサウンドにしたりと、作品としての作りもまとまっています。やはり、意外にまとも、という言葉を使いたくなります。

Easy Listeningな軽い聴き心地の中に、現実世界へ浸食するかのようなアッパーな感情性、ギリギリのテンションを封じ込めることで、見事にVaporWave以降を感じさせてくれる、面白い作品です。なかなかの手練れの予感。1作目の“新しいコンピュータのOS 98”とはまた一味もふた味も違ったサウンドになっていて、いったいどういう素養を持っているのかと、興味を抱かせる作り手さんです。

サウンド的には一致しないかもしれませんが、イメージが重なるのが、やはりVaporWave界のアウトサイダー(というかもはや離れた感のある)、Amun Dragoonとか、スペインのLo-Fi脱力Popメイカー、This Deep Well(一時期大量に公開されていた作品群、今は消されています)あたりです。



Amun Dragoon – Socotra Island

 cover

 – Tracklist –
 01. Mystic Water Zone
 02. The Wind is Dreaming
 03. Martial Law
 04. Fishing
 05. Emerald Grove
 06. The World Egg
 07. Amie
 08. A Walk Planted With Trees
 09. Your Journey Leads Here
 10. Lunch
 11. Spooky Elevator (feat. Madalyn Merkey)
 12. Submarine in the Ocean Forest
 13. Celestial Sky City
 14. Tamagotchi Treasure
 15. Monster
 16. Silk Mirage
 17. Tall Fruit



 - 03. Martial Law



 - 12. Submarine in the Ocean Forest


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 Release Date : 2015.01.13
 Label : Not On Label

 Keywords : Ambient, Easy Listening, Muzak, NewAge, Nostalgia, Synthesizer, VaporWave.


 Related Links :
  ≫ Amun Dragoon on Last.fm / on SoundCloud / on bandcamp


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Amun Dragoon(アムン・ヅラグン)の最新作が完全フリーで配信されています。けっこう前に出すようなことを告知してから時間が空いたように思いますが、モチベーションなくなってしまったのかと心配しておりましたので、こうしてリリースにこぎつけてくれただけで、素直にうれしく思います。

もともとVaporWaveのカテゴリに入れられつつも、そこに収まらないサウンドを鳴らしていましたが(前回取り上げたときにもその方向で書きました)、今作でもはや完全に、VaporWaveを引き離し(引きはがし)にかかっています。プレなのかポストなのかは分かりませんが、VaporWaveを対岸に見ながら、ノスタルジックな顔をしている気配。SoundCloudでは今作について“Tutorial”というタグがついていますが、いったい何についてのチュートリアルなのでしょうか。

タイトルのSocotra Island(ソコトラ島)というのは実在する島の名前です。Wikipediaによれば、“世界遺産に登録される独特の生態系と、その奇観で知られる。 紅海の入り口に位置し、ジブラルタルと並んで地政学的に重要なこともあって、第二次世界大戦やそれに類する戦争を扱った架空戦記などにもしばしば登場している”とのことです。有名なのは竜血樹(dragon tree)でしょうか。その島での過ごし方に対するチュートリアル、という意味合いなのかもしれませんが、各トラックに付されているコンピュータ・グラフィックス(CG)を見ていると、実在の島というよりは、架空の島を想像してしまいますね(organicではなく、inorganic)。ちょうど、私の好きな“MYST”とか、まさにあの雰囲気です。神秘的で、謎に満ちた島。過去も未来も一緒くたにしたような特異な文化、技術、デザインがあふれる島。

そういったいわばヴァーチャルな島といったイメージを使ってくる辺り、それとNewAge経由のmeditativeなAmbientが組み合わされている点は、やはりVaporWaveを踏まえている(つまりPost-VaporWaveな)気もします。音楽単体で見ると、NewAge/Easy LinteningなSynthesizer musicといったところでしょうか。M-3‘Martial Law’にあるこのシンセ感とかどうですか。何だかちょっと日本のレトロな歌謡曲っぽいし、この大げさなシンセサイズな感じをあえてチョイスする、そのレトロスペクティヴな志向。私のノスタルジャーな気質をたまらなく刺激してくれます。‘Fishing’もメチャクチャ牧歌的なシンセミュージックになっていて、ちょっとどう受け止めたらよいのか、戸惑うくらい。

それから今回はVocaloidと思しき合成音声も使われていて、そのことも今作のシンセサイズな聴取感を強くしていると思います。聴き取れない言葉をミニマルに反復する、童謡のような‘The World Egg’がそれにあたります。作品全体ではAmbient系が大半を占めていますが、M-5‘Emerald Grove’やM-12‘Submarine in the Ocean Forest’のアフターサマーなサンセット感・チル感もよいですし、ウェットなレイヤーにPianoを配した‘Amie’の物憂げな空気もよいです。シリアスで深遠なラストの‘Tall Fruit’も望郷感/寂寥感にあふれていて引き込まれます。

作中で最もドラマチックな‘Celestial Sky City’ではシタールの音色も使われていて、エスニックかつAncientな気配。関連して、M-10‘Lunch’のイージーなトライバル感も面白いです(火を囲んでの宴のようなイメージですね)。M-15‘Monster’もどこか不穏なシンセミュージックだし、やはりAmun Dragoonの場合は幸運なことに(?)トラックのタイトルとサウンドのイメージが結びつけられているようです。ということは、これはやはり、Socotra Islandのチュートリアル・・・? よくよく見ればジャケットイメージには森へ向かうヒヨコ(のようなもの)の軌跡が描かれている。秘密の場所への案内図、なのかもしれない。確かに、少なくとも今作は、ここではないどこか(virtual island)へ、リスナーを案内してくれる。

一見トっ散らかった内容に思えるかもしれないけれど、通して聴くと意外に違和感がなくて、どこに一本筋が通っているのだろうと、不思議に思えてきます。ちょっとレトロで、とても不思議なシンセサイザー・ミュージック。VaporWaveの追跡を飄々とかわした気配。今後もレトロスペクティヴでミスティックなシンセサイザーミュージックをお願いします。